セミナー講師の秘訣
遠江(とおのえ)です。
私はいまは新事業構築のため、ほんのしばらくお休みしていますが、セミナーはどんなに少なく見積もっても千回は軽く超えるほどやってきまして、人気もかなりあったのではないかと思います。
一番大きなセミナーで1700人集めましたし、多い人で十回以上リピートして聴きに来られていると思います。
そこでいままでの経験の集大成として、きょうは「セミナーの秘訣」についてお話しようと思います。
セミナー講師として喋る側の秘訣ということです。
このテーマでレクチャーしている方は多いと思いますので、なるべく独自の視点でユニークに語るよう努力してみます。
といっても決して奇を衒うわけではなく、すべて私が体験を通じて開眼した内容です。
◆目
セミナー講師として前に立ったとき、最も大事な心がけは「聴衆を正しく見る」ことだと思っています。
セミナーというのはライブですので、どんなに話す内容を準備してきても、前にいる聴衆を喜ばせないと失敗なわけです。
下を向いてレジュメばかり見る話者は最悪ですが、前を見ていたとしても、聴衆が目に入らず、自分の話す内容のことで精一杯になると、まず受けません。
また、かなり経験を積んできても、「なるほど」と聴衆を納得させることはできても、「おもしろい」と彼らを感動させるのは難しいものです。
こちらがリラックスしているようで、どこか緊張しているのが相手に伝わると、もう感動してもらえなくなります。
そういう数多くの体験を通して気づいたのは、自分を含めてほとんどの話者の「目線が低い」ことです。
たとえで言っているのではなく、物理的に目線が低すぎるということです。
人間の目線というのはどうしても一番気にしているものに集中するので、話者は聴衆に目が行きます。
それはいいのですが、一種の視野狭窄(きょうさく)が起きて、それ以外は目に入らない状態になりがちですが、これだと緊張のし過ぎなのです。
私が発見した正しい視界とは、普通に見たとき、聴衆が中央に来て上の天井の一部も、下の床の一部も含め、全体が捉えられている視界です。
説明が難しいですが、やってみると簡単で、このナチュラルな視界をキープしながら話すと、場の雰囲気全体が自然につかめます。
聴衆を全体として正しく見ることができれば、場の空気をしっかりつかんだ適切な話ができるわけです。
「正しく見れていない人」は、「正しく語れない」のですね。
ただ、この「正しい視界」はわかってしまえば簡単なのですが、誤解を生むといけないので、もう少し別の角度から語り足してみます。
◆姫路城
以前、桜の満開の季節に姫路城改修のお披露目も重なって、大盛況になった頃行きました。
姫路城は「白鷺城(しらさぎじょう)」という愛称がつく、真っ白でもっとも美しい城といわれているところです。
数万人の人出があるなか、私も姫路城が一望に見渡せる場所に立って、その景観に息を呑みました。
快晴の空はどこまでも青く広がり、その下に真っ白な姫路城が輝き、その裾には満開の桜が広がっている。
この「空」「城」「桜」のパノラマは、これまで人生で見たどの景色をも凌駕して、深い感動を私に与えたのです。
そこで私はこの「空」「城」「桜」が見える視界をそのままに、城を斜めに見ながら桜並木歩き始めました。
よくブルーレイ(高品質DVD)の絶景シリーズなどに、ハイビジョンで視界を固定したまま、絶景ポイントに移動している絵を見ますよね。
あれは、高性能カメラをレールの上を滑らせて撮影しているのだと思いますが、高いものだと五千円以上とります。
しかし、そのときの私の「目カメラ」で見た「空」「城」「桜」の絵は、どんなハイビジョンにも勝って、最高の臨場感と最高の解像度で広がっていたわけです。
伝わりますか、この感じ。
しかし、そのあと気づいたのですが、ほとんどの拝観者は、みんな目線が低いのです。
空・城・桜を見ずに、縁道の出店を見たり、前の人の頭越しに桜をチラと見るぐらいで、全体のパノラマを見ていない人がほぼ99%でした。
私に言わせれば、もっとも美しい姿を観ずに、ありふれた姿だけ見て、雰囲気だけ楽しんでいるだけでした。
私の記憶にはあの日の姫路城は忘れがたい美しい景観として刻まれていますが、他の方にはひょっとしたらよくある一日として忘れ去られていくのかもしれません。
もったいない。同じものを見ているのに。
これが「正しい視界」と「そうでない視界」の別角度からの説明です。
◆世界は美しい
ものごとの全体を正しく捉えると、世界は美しい、というのが私の主張です。
満開の姫路城でなくとも、ある日の練馬住宅街でも、やはり世界は美しいと感じます。
しかしその前提は、「正しい視界で観れば」です。
私だって何かで落ち込んで下を向いて歩いていたら、世界はちっとも美しく見えません。
それはセミナーの時間も一緒です。
その時間を聴衆に心から楽しんでもらうためには、話しているこちらも世界が美しく見えている必要があるのです。
素晴らしさが見えているから、素晴らしいバイブレーション(波動)で話ができる。
そういうものだと思います。
◆パフォーマンスの向上
私自身、この「視界の妙」に気づいてから、セミナーの反応は明らかによくなりました。
それまでは、たとえばたった一人でもつまらなそうな顔をしている人がいると、それが気になって仕方がなかったのですが、
それからは個別のことに囚われることなく、全体の場を感じ取って話ができるようになり、
結果として場をつくるエネルギーが増したのです。
慣れてくると、全体の場を見ながら、しかも一人ひとりの反応もよく見えて、
その場で最も適切な(主観的にですが)話の流れをつくってセミナーを進めることができるようになったようです。
その結果、聴衆もリラックスして、より私の話に入ってきてくれるようになりました。
こちらが正しく見ていると、向うも私を正しく見てくれるようになったと感じたといえばいいでしょうか。
いずれにしても、視界一つで思った以上の変化がセミナーに現れるようになったのは確かです。
私と聴衆の間の心のコミュニケーションがよくなって、ライブが明らかによくなったと言ってよいでしょう。
だから「セミナーの秘訣」として私が最初に強調したいのは「正しく見ること」すなわち「正見(しょうけん)」です。
よく見えることによって、自然に話の軌道修正ができるようになり、またセミナーを終えたあとの反省もより進むようになったと思います。
「あそこはさらにこうしたほうがいいな」ということが、よりくっきりと見えるようになりました。
そういうパフォーマンスの向上にしたがって、セミナー参加者ももっと増えるようになったのです。
きょうは「見る」というところだけで一話完結しそうです。
別の論点もありますので、それは次の機会に。
ではまたお会いします。