松本人志のコピーライティング力

遠江秀年(とおのえひでとし)です。

私は音楽でもお笑いでも、繰り返し観る人というのは少ないのですが、
そのなかでかなりリピートして観てきたのが松本人志というお笑い芸人です。

80年代中盤から現在に至るまで30年ものあいだ、TVでトップクラスの活躍を続けているので、
「永く活躍する人」のクラスに十分入っている方でもあります。

そしてきょうのテーマの「松本人志のコピーライティング力」ですが、
これは彼が文章を書くプロということではなく、
彼の話している内容は文章化しても、
人に読ませ、
人を信じさせ、
人を動かす力がある、
という意味でつけたタイトルです。

それではまず、彼の話した作品のなかで、私がひじょうに感心したものを、
そっくり書き起こしてみましたので、少し長いですがお付き合い願いたいと思います。

これは「すべらない話」という番組で数年前に話した内容の完全書き起こしです。

◆三又又三(みまた またぞう)

①あの、あれですよね、まあ、ここにいるみなさん、なんとなく経験あると思うんですけど、まあ、たまに、こう、休みできたら、どうしても、こう、ちょっと仲のいい後輩芸人を誘っちゃうじゃないですか。

②で、まあご飯行くにしたって、やっぱり後輩芸人とか、飲みに行くにしてもそうなるんですけど、まあ、これ悲しいかな、その、悲しいってのかな、後輩芸人も、だんだんこう、仕事が忙しくなって、こう、売れていくんですよね。

③これ、嬉しいことなんですけど、ちょっと、まあ、寂しさもあって、ジュニアとか、大輔なんか、まさにそうで、ああ、もうそんな寂しい思いは、正直あんまりしたくないな、っていう思いがちょっとあるじゃないですか。

④でも、そう考えると、ああ、あんまり忙しくなる奴じゃない(笑)、
そんなに売れる見込みのない奴と遊んどいたらええかなあ(笑)
ていうことで、最近、三又又三と(爆笑)

⑤よく遊ぶんですけど(拍手)、ちゃう、僕もあんまり言いたくないんですよ、テレビで、なんか仲良くしてるて、あんまり、三又と僕がね、遊んでるというと、なんかあんまり、「松本さん、センスちょっと枯れたんかな」(爆笑)
て思われるんで、あんまり言いたくないんですよ。

⑥だから、もう、三又にも、二人で歩いてるときに、業界の人来たら、すぐ離れろよ(爆笑)
て言うて、うん、
「愛人じゃねえか、それじゃあ」
って、また全然おもしろくない(爆笑)感じでね、来られて、
(以上、前フリ)

⑦で、まあ、そんなおもしろくない三又との、ちょっと前の話なんですけど、
まあ、ちょっと、まあ休みで、ちょっと映画でも行くか三又。

⑧で、まあ、映画行ったあと、飯も食うし、酒もちょっと飲むから、もう、車じゃなくて、タクシーにしょうか。

⑨んん、ほんなら、迎えに来てくれって、三又がタクシーで僕の家まで来て、
「お早うございます(物マネ)」みたいなんで、僕休みですからね、気軽な感じで、うぇっす、みたいな感じで乗って、運転手さん、どこどこまで行ってください、て車がまあ、タクシー走り出しますよね。

⑩一、二分ぐらい、経ったぐらいですよね、まだ一、二分しか経ってないんですけど、
「あのね〜っ(物マネ)」って(笑)、「僕、ラーメン好きじゃないですかあ(笑)」、て始まったんですよ。

⑪や、ま、知らんし(笑)って、面倒くさいけど、そうなんかなっ!て言ったあと(笑)、

⑫「最近、おいしいラーメン屋見つけましてね」って、「渕(ぶち)」って言うんですよ、これは、その、店長が、あの、長渕剛ファンの店長で、あの、だから、長渕の「渕」採って、「ブチ」っていう名前のラーメン屋さんなんですけど、ここ、このあいだ一人で行ったんですよ。

⑬すごくお腹がすいてまして、で、大盛りのつけ麺を頼んだんです。(笑)

⑭で、まあ、大盛りなんで、麺も太麺だから、すごく時間が思ったよりもかかったんです。

⑮で、僕もすごくお腹が減ってたんで、遅えなあとは思ってたんですけど、そこはそこ、その「渕」っていうラーメン屋だけあって、店内にはずっと長渕剛の歌が、流れてるんで。

⑯で、僕、長渕剛嫌いじゃないんで(爆笑)、

⑰それはそれで、あああ、懐かしいなとか、こんな歌もあるのかなあって、お腹が減りながらも、聴いてたんですけど(笑)、
そしたら、あの、海の向こうの、飢えた子供たちの、歌が流れて来たときに、
「はいお待ち」って、そのつけ麺が来て、
「食えねえよ!!」ーー(笑)……って、ねっ(爆笑)

⑱で、タクシー乗っててね、
「三又」と、
「おまえ、誰で試してんねん」と(大爆笑・拍手)、
「しんどいわ」と(爆笑)、
休みの日に、(笑)
このクオリティで(爆笑)、
なんか飯食いに行ってて、飲んでて言うんならいいですよ、まだ会って一、二分(笑)、「お前も同業者ならわかるやろ」(爆笑)。

⑲これまあ、いわば、説教ですよね、
いわば、これ、おまえと俺が手品師やったとしてですよ、タクシー乗って、どや顔で(笑)、鳩出されたらキツいよ(爆笑)、
どうですか、みたいな(笑)、
まあ、いわば俺が空手ができたとして、黒帯の俺にね、負けまへんでみたいな感じで(笑)、瓦二枚割られてもキツいで、と(爆笑)。

⑳かんべんしてくれって。

以上

◆解説

いかがだったでしょうか。

私はこれを観て爆笑したと同時に、その話術に深く感心しました。

彼が話しだしたと同時に、
話に引きこまれ、(聴かされ)
どんどん共感し、(信じさせられ)
最後に爆笑し、彼の他の話をyoutubeで探し始めたのです。(動かされた)

超一流の芸人の話術のすごさに目を見張ったわけです。

では、どこでこの魔術が効いたのかを詳しく見ていきましょう。

◆前フリ

書き起こしの①から⑥までがいわゆる「前フリ」で、話の導入部分です。

①〜③では「あの」とか「まあ」とか「こう」とかが多用されて、
ゆっくりと場を見ながら話が始まっていきます。

まだ笑いは起こりません。ただ、「どんな話をするのだろう」という聞き手の興味は
しっかり引き寄せ始めています。

で、④〜⑥において、それは「三又又三」というかなり空気の読めない、そんなに売れてない、
かなりアバンギャルドな中堅芸人の話であることが明かされて、最初の爆笑が起こります。

この「何の話だろう?」「誰の話か?」と徐々に興味を引いておいて、
「三又かぁ」とギャップをつくって落としていくのが、場の雰囲気を見ながら即興で組み立てられていくあたりで、
すでに卓越したお笑い力がにじみ出ています。

⑥までの前段で、あっさりとNot Listenの壁を超えているわけです。

聞き手を、しっかりと話を聴く態勢に入らせています。

◆中盤

で、⑦から⑰あたりが中盤ですが、
ここで本題に入って、話の場面にわれわれを連れていき、
松本の視点でわれわれに出来事を追体験させます。

休日のマンションの前、タクシーが来て三又又三と後部座席に座って、
車が走っている場面やラーメン屋の情景が鮮やかに見えてくるわけですね。

そこでの⑪とか⑬とか⑯の小ネタで笑わせながら、
三又の空気の読めないギャグの連発に、
やれやれとうんざりしている松本の心情に、
われわれはしっかり共感させられていくのです。

このさりげなく話を回していって、聞き手を自分の心情と
同一化させてしまう力量が、腕前がすごいと思います。

ここで気がついたらNot Believeの壁を越えてしまっているんですよ。

⑰のオチ前の爆笑で、
聞き手は完全に松本に共感しています。

◆オチ

そして、ズドーンと落とすのが⑱。

この短い一文のなかで、なんと5回も怒涛の爆笑を起こさせることに成功しているのです。

全部言葉の力でわれわれを動かしています。

ギャラリーも大笑いしたし、現場に居た出演者のプロ芸人たちも
腹を抱えて笑わせ拍手させています。

「おまえ、誰で笑わしてんねん」

三又の空気の読めない最悪のギャグを、
「つまらない」で順当に笑わせるのではなく、
「『誰を』試験台にしてすべらない話の練習してるねん」
と意表をつく角度から大爆笑させたあと、

「しんどいわ」
「休みの日に」
「このクォリティで」と
一つの単語ごとに別の論点で笑わせて、
最後に、
「お前も同業者ならわかるやろ」でもう一発笑わせているのです。

これはサッカーの名手ネイマールが、相手のディフェンスを
右に左にまた右にそして左にフェイントしまくって、
相手の態勢を崩しまくっていくファインプレーそのものです。

松本はもう「そんな簡単に笑わへんで」というギャラリーのディフェンスを
崩しまくってゴールにボレーシュートを決めているのです。

Not Actの越え方が、異次元のすごさです。

もう周りを動かしまくっています。

◆まとめ

まぁこの話が松本人志の代表作でも何でもなく、
ただTVで即興でゴールして見せた
ちょっとしたプレイであるところがまたすごい。

それを全部文字起こしして分析している私も酔狂ですが、
いやあまりの見事さに、
「いったいいま何が起きたのだろう」と探究心が強く刺激されて
動かされてしまったのです。

これが一流芸人の
Not Listen,Not Believe,Not Actの越え方の一例です。

この背後には無数の真剣勝負の積み重ねという
実践の厚みがあるわけです。

一流を目指すには、数多く一流に触れる必要がある。

その意味で、コピーライティングの一流を目指す人達にも、
ぜひ観てほしい松本人志の話術でした。

話し方のメロディの妙もあるので、実際に聴いてみるのをお薦めします。
↓ 
すべらない話・松本人志「三又又三」

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One Response to “松本人志のコピーライティング力”

  1. 堀内康義 より:

    私も、松ちゃん好きです。異次元的な笑いは、天才的ですね。
    でも松ちゃんをここまで分析した人は、いないでしょうね。(笑)

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