不世出のミュージカル・スター、ジュディ・ガーランド

遠江です。

私は過去から現在に至るまで、世界中で最高のミュージカル・タレントを挙げよと問われたら、迷うことなくジュディ・ガーランド(1922〜1969)を推奨します。

この人は私生活では毀誉褒貶が多いのですが、それは置き、純粋に芸として見れば、あらゆる芸能人の中で才能がピカ一だと思うからです。

最近、このメルマガで「コト消費トレンド」を紹介していますので、私の長年に渡る研究の中から特選映像を厳選して、

きょうはあなたに最高のミュージカル体験をしていただこうと思います。

AKBやディズニーや劇団四季をはるかに超えた至福の経験に、ご招待しましょう。


◆虹の彼方に

まずはジュディの出世作となった子役時代の映画『オズの魔法使い』から、タイトル曲の「虹の彼方に」を観てきてください。

大人気子役の代役で出演した17歳の天才少女が、いきなり世界のアイドルになった魅力の何たるかを味わっていただければ幸いです。

Judy Garland「Somewhere Over the Rainbow」(1939)

この人は歌がうまいとか芸達者というのを超えて、パーソナリティで人の心をつかんでしまう女優でした。

実質デビュー作を、いきなりミュージカル史上のスタンダードにしてしまう登場の鮮やかさを感じ取れるでしょうか。

彼女はこの作品でアカデミー子役賞を獲得しています。


◆20代前半のジュディ・ガーランド

その後ジュディは青春一座ものと呼ばれる一連のミュージカルに主演し、大ヒットを飛ばし続けます。

この20代前半期、彼女の進境は著しく、ジーン・ケリー、フレッド・アステア、ビング・クロスビー、フランク・シナトラなど大スタート共演しては、

彼らより明らかに注目を集めるという極めて強いスター振りを発揮します。

普通、新人の人気女優が歴戦の大スタート共演すると、演技力で位負けしてくすんでしまうことが多いのですが、彼女は本物の実力でその関門を次々突破していきました。

次は、「雨に唄えば」でミュージカル男優ナンバーワンに君臨するジーン・ケリーと、彼の得意フィールドであるボードビル演技で共演したジュディを観てください。

Judy Garlaqnd & Gene Kelly「Ballin’ the Jack」

オーラがジーン・ケリーより強いので、どうしても目がジュディの方に行ってしまいませんでしたか?

17歳の頃より鮮やかに洗練されて、この時点でもうミュージカル・タレントNo.1の実力を名実ともにつかんでいることがよくわかります。

何より観ていて楽しく、幸福な気分にさせますよね。

この「人に幸福感を与える資質」こそが、彼女を世界一にした原動力なのです。


◆ハリウッド全盛時代のジュディ

この当時、1940年代半ばごろというのは、アメリカが第二次世界大戦に勝って、世界の覇権国になった絶頂期です。

なのでアイドルといっても今の日本と規模がまったく違い、プロモーション映像一つつくるにも、ちょっと考えられないスケールで無数の才能が結集して、たった一人の女王をサポートしていきます。

それは見渡すかぎりの花壇の中心に、ひときわ華やかなステージがあって、そこに全世界の耳目が集まっていたのだとイメージしてください。

そんな20代半ばのジュディが、ハリウッド全盛の舞台装置の中で歌い踊るシーンをご覧に入れます。

Judy Galand「Who(あなたは誰?)」

百人以上の出演者によるこれだけ大規模なステージの上で、ほとんどカット割りなして複雑な踊りをこなしてみせる彼女は、

やはり不世出の大スターとしか表現できない華と風格を兼ね備えています。

この2分30秒の大仕掛けを支える水面下のスタッフや、事前の練習量、セットづくりがどれほど莫大なものだったかを想像するに、

ある国が世界一に登り詰めるとき、文化のほうも他に類を見ない爛熟を迎えるという、歴史的なフィルムと言えるでしょう。


◆道化役をこなすジュディ

ジュディ・ガーランドという人は、単なるアイドル的人気だけではかることのできない、多彩な才能を持つ人です。

可愛い、きれい、というだけでなく、おもしろい、笑える、という芸でも超一流ということですね。

次に観てほしいのは、もう一方のミュージカルの大物、フレッド・アステアと共演した道化芝居です。

彼女の表情と動きに注目してください。

Judy Garland & Fred Astaire「A Couple of Swella(乞食カップル)」(1947)

ここでのアステアは決してジュディの脇役ではなく、むしろ両主役なのですが、

やはりどう見てもジュディのオーラが巨大で、視線は彼女に惹きつけられますね。

このとき若干25歳。

彼女の芸というのは、何十年経っても繰り返し視聴に耐える本物の味わいがあると、つくづく思います。


◆最高傑作、32歳のジュディ

つらい数年間の浮沈のあと、イメージチェンジしてカムバックしたジュディに最高傑作が生まれます。

『スタア誕生』というこの映画は、落ち目の大スター(男)が、売れない無名の女歌手を発掘し、

彼の最後のいのちの輝きを込めて、彼女を大スターにまで仕立てあげる感動的な物語です。

いまから観てほしいのは、その映画の中で最も有名なシーン。

アル中の大スター、ノーマン・メインは、ふと訪れた閉店後のカフェで、

自分たちのためだけに演奏しているバンドと歌手の曲を聴き、

埋もれているとてつもない才能を発見します。

場末のバンドマンたちは、一晩中お金のために演奏をした後、自分たちの心の隙間を埋めるために、

ほんとうにやりたい音楽を心ゆくまで味わいつつ演奏し歌うのです。

映画史上に残る名シーンと、ジュディ生涯の名唱をお楽しみください。

Judy Garland「A Man that Got Away(行ってしまった彼)」(1953)

ここでのジュディの歌唱は神がかっています。

この4分間だけでアカデミー主演女優賞にじゅうぶん値すると思います。


◆私とジュディの想い出

私は彼女がこの世を去った17年後、1986年の夏、ある運送会社で宅配のハンドルを握っていました。

20代後半の私は、独立資金を貯めるため、朝6時から夜10時までの激務をこなし、そのあと雑魚寝の寮で疲れを癒やす毎日を送っていたのです。

プライベートのほとんどない、お金を稼ぐだけが目的の、つらい孤独な一夏でした。

その私が唯一の慰めに、トラックのダッシュボードに置いたのがジュディ・ガーランドのプロマイドだったのです。

エアコンのない酷暑の車内で、彼女の笑顔を眺めながら、自分を励ましていた30年前の自分を懐かしく想い出します。

その意味で、本日のジュディ・ガーランドの名演をお届けするアイデアは、

けっして昨日や今日思いついた薄っぺらい企画ではありません。

繰り返し味わってもらえれば、これにまさる幸せはないのです。

ジュディ、あの世でもお元気で。

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