最後は精進力が勝負を決することについて
遠江(とおのえ)です。
世に大成功した人の長年に渡る人生を研究してみると、共通の秘訣は極めてシンプルなところに落ち着いて、彼らはすべて精進力が強大です。
「精進力」というのは、「自助努力をし続けるところに獲得できる底深いパワー」と定義しておきます。
起業家の世界では、ロックフェラーもヘンリ・フォードもエジソンも、松下幸之助も本田宗一郎も鈴木敏文も、みな人並み外れた精進力の持ち主です。
ただここに別の議論があって、彼らはみな絶妙のタイミングをつかんだから大成功したのだ、と主張する者たちもいます。
ロックフェラーは石油産業勃興期に、ヘンリー・フォードや本田宗一郎は自動車産業勃興期に、エジソンはエネルギー産業勃興期に、松下幸之助は家電産業勃興期に、鈴木敏文はコンビニ産業勃興期に、いち早く出てきて、先行者利益をつかんだから大きくなったという議論です。
そこまでは私も同感しますが、タイミング主義者たちはときとしてこのように論をかぶせてきます。
だから、努力をしてるだけでタイミングを外したら埋もれてしまうだけなので、このタイミングを逃さずさぁいらっしゃい、と。
だいたいタイミング主義+努力軽視論を唱えるのは信用できない者たちであって、要は売り込みのレトリックであることが多いのです。
その証拠に、そのような者たちが呼びこむ説明会などに参加すると、猫なで声や一転して脅しまがいのクロージングをかけられ、あとはロバになったピノキオよろしく、二度とまっとうな世界に戻れない悲しい日々が待っていることが多いのです。
だいたい詐欺師というのは一定の正しいことを言っておいて、相手を信じさせておいてから、おかしなことを言い始めるものなので、そこを見抜く冷静な知性を持っておくことをお薦めします。
その見ぬくポイントは「精進力」を重視しているか軽視しているか、その一点を注視しているとよいでしょう。
ピノキオだって「精進力」を軽視して、サーカスに売られたのですから。
◆精進力かタイミングか
では、精進力があってもタイミングを失うと、そのへんに埋もれてしまう、という論について検討していきます。
つまりどんなに馬鹿一のごとく自助努力していても、ものごとが勃興するときの先行者利益にあずかるタイミングを外せば、大成功することはできないという意見についてです。
たしかにたとえばアメリカの大富豪の魁(さきがけ)である、ロックフェラー、アンドリュー・カーネギー、フォードたちは、「金ぴか時代」と言われる産業勃興期に事業を始めました。
当時はカリフォルニアに金が出て、みんな一攫千金を夢見て西へと急ぐ、いわゆる”ゴールドラッシュの西部時代”が幕を開けた時期でしたし、その後こんどは東部のクリーブランドに石油が出て、また別の一攫千金野郎たちが群がった時期です。
すでに20歳で独立し、蓄財の超堅実さと勝負に出るときの大胆さで、駆け出しとして一定の成功をしていた若き日のロックフェラーは、みんなが大騒ぎしている時期はしばらくうっちゃり、一定の安定感が出た時期を見計らって石油事業のリサーチをしに現地に入りました。
そこで見たものは、油まみれのぬかるみをせわしなく行き交う輸送馬車と、道端に捨てられたおびただしい数の馬の死骸と、夜は酒池肉林とギャンブルの酒場でした。
だいたい一攫千金の現場とはそのようなものです。
しかしロックフェラーは掃き溜めの鶴のごとく上品な服装とものごしで、静かに話を聞き回って、市場を調査し続けたのです。
その結果見えてきたのは、この狂乱期はそう長く続かない。やがてまっとうな実力者による再編が行われる。
そこで覇者になるために、十分な構想と準備をしてかからなければならないと結論して、石油採掘には手を出さず、精製と輸送に特化しておもむろに事業を始めたのです。
つまり、ロックフェラーは先行者利益を狙って初期市場に飛び込んだわけでもなく、タイミング重視で精進力軽視の輩たちとは、はじめから一線を画した存在だったのです。
この人が大成功したのは、初期の市場勃興期特有の混乱を横目で眺め、二番手で参入して、一段上の経営力で事業を整備したからです。
◆ロックフェラーの精進力
そして初代ジョン・ロックフェラーの際立った特長は、一度やると決まったら、朝から晩まで石油のことしか考えない、とことん追い求める性格だったのです。
早朝、仲間が集って朝食を摂るときも話題は石油、仕事中の話も石油、帰り道も喋ることは石油、一緒に経営を手伝っていた弟のウィリアムは「兄さん、頼むから夜中の3時に石油のアイデアを思いついたからって僕に電話をかけないでくれ」と言っていますから。(笑)
私が見てきた大経営者たちのなかでも、極めつけの精進力の持ち主がジョン・ロックフェラーです。
つまり、逆にこう言うこともできます。ロックフェラーぐらい事業に打ち込んでいたら、商売参入の好機ぐらい自ずと引き寄せられてくると。
なにしろ石油を始める前の商社経営時代も、事務所を参謀本部みたいにして、あらゆる情報を集めていたぐらいですから、いいタイミングがあれば逃すはずはないのです。
また、そのタイミングの取り方は、釣り球に焦って泳ぎながら打ち急ぐことはなく、全盛期の落合博満よろしく、ボールをよく懐に呼び込んでから、少し遅れ気味かとも思える打点から一気にバットを振りぬいてバックスクリーンに持っていく、といった打法でした。
慌てる乞食は貰いが少ないのです。適切なたとえかどうかはわかりませんが。(笑)
◆器相応の成功
では、ロックフェラー・クラスの抜きん出た器がなければ、精進力はあっても成功できないのではないか、という疑問もあるかもしれません。
ただ、器相応の成功をするのがその人にとっていちばん幸せ、ということがあるのです。
逆に言えば、器以上の成功をしてしまうと後が怖くて、その後、急転直下墜落してしまう人が歴史上跡を絶たないのです。
石油でも最初に油田を掘り当てたドレイクという起業家は、大金をつかんだ後、ニューヨークの競馬で全財産をすって没落していき、最後はロングアイランドかマサチューセッツの養老院で寂しく死んでいきます。
これは、彼にとって器以上の大成功をしたゆえに、成功の反作用を受け止めきれなかった例でしょう。
彼はお金に困っていた時期に、金を出す者と共同事業主として、じっさいはていのいい下請けとして石油採掘をやらされており、電灯に飛び込む蛾のように引き寄せられて事業参入をしていたのです。
決して精進力があり、自然にチャンスを引き寄せてタイミングをつかんだ人ではありません。
今日の結論です。
タイミング重視、精進力軽視の論者には気をつけよ。
情報に気をつけつつ精進力を磨く者は、参入時期を決して間違わない。
最後は精進力が勝負を決するのだ。
以上です。