セブンイレブンの強みを自分のビジネスに応用する
遠江(とおのえ)です。
私はいまの日本企業のなかで総合的に見て、最も優秀なのはセブンイレブンだと思っています。
その業界内での圧倒的強さ、長期に渡る右肩上がりの発展、従業員のモラルの高さ、そして経営者のカリスマ性、どれをとってもピカイチだからです。
ちなみに、ハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディに採用されている日本企業はただ2つで、トヨタとセブンイレブンのみ。
そして、セブンイレブンの鈴木敏文会長は、そのハーバード・ビジネス・スクールに招かれて特別講義し、最後は学生たちが感動してスタンディングオベーションしているのです。
セブンイレブンを日本にのれん分けしたサウスランド社が経営不振で倒産したとき、請われて日本から乗り込んだ鈴木敏文が、「ハリケーンスズキ」と現地幹部に恐れられるほどの抜本改革を断行して、瞬く間に黒字化させた手腕を見ても、その実力は世界有数のものです。
そこできょうは、日頃「異質結合」を繰り返し標榜している遠江が、セブンイレブンの強さを異業種に応用したらどうなるのか、というテーマでお話してみたいと思います。
題して、「セブンイレブンの強みを自分のビジネスに応用する」です。
◆セブンイレブンの強みの核心は何か
まず、セブンイレブンの強みの核心を私なりに一言で言うと、「棚の輝き」です。
これは「商品棚の整備のされ方が、他社と隔絶して素晴らしい」という意味であり、経営学的には「単品管理」の賜物です。
「単品管理」とは、つまり、一個一個の商品の売れ筋死に筋を数字でつかみ、さらに「明日は何が売れるか」という仮説を加えて智慧のある発注をし、さらに棚の陳列に手を加え続けるということです。
要するに「何を発注するか」と「どう並べるか」のところで圧倒的に差別化しているのです。
それは私が多数のコンビニを日常的にパトロールして、はっきり実感できることでもあります。
セブンイレブンはどの店も、いつも店員が棚に張り付いてPOSに入力したり、商品を並び替えたりしています。
それもたいてい複数の店員がそれをやっているのをいつも見かけます。
対するローソンとかファミリーマートは、それほどでもありません。
だから、体感レベルで棚の輝きがまったく違うと、私はいつも感じています。
そして、棚の輝きの差が、そのまま売り上げの差になっているのです。
日販比較で、セブンイレブン68万円、ローソン49万円、ファミマ35万円であり、実に二位のほぼ1.5倍、三位のほぼ2倍の売り上げ差です。
この売上の差は、つまるところ「棚の輝きの差」であることを、私は日々実感しています。
◆伝道師・鈴木敏文
言葉で表現すれば、たった「棚の輝きの差」というだけですが、実際の経営力の差は歴然としています。
鈴木敏文ははっきり言って「現代の伝道師」だと私は思っています。
この方の経営は、単なるマネジメントではありません。「伝道」です。
毎週(いまは隔週)、全国から店長のリーダーを何千人も集め続けて、「単品管理」を伝道したのです彼は。
だから、末端の店員の動きを見ても、鈴木さんの伝道の光は届きまくっています。
単に上から言われたからやっているのではなく、一人ひとりが心から腑に落ちて、自分から創意工夫して棚に手を入れている。
このトップダウンで発した理念を、みんながボトムアップの創意工夫で返してくる正の循環は、そう簡単につくれるものではありません。
ここまで理念を浸透させるのに、いったいどれほどのエネルギーをかけてきたのか。
というより、鈴木さんが全17,000店長、おそらく5万人を超える店員すべてに伝道することを完全習慣化している賜物でしょう。
つまり、やっていることは「単品管理による棚の手入れ」だけなのですが、「なぜ、それをやる必要があるのか」「なぜ、あなたが工夫すべきなのか」を徹底的に理念浸透し、あがってきたやり方を徹底改善し、最後は人間教育にまで落としこむ。
それだけの背景があって、あれだけの「棚の輝きの差」「売上の差」になっているわけです。
◆異業種への応用方法
さて、この鈴木敏文率いるセブンイレブンの強みを、異業種に応用したらどうなるでしょうか?
いちばんわかりやすい異種結合は、実際に棚のある商売をしている業種でしょう。
たとえば書店。これなどは「単品管理」して「棚の手入れ」をすれば、どんどん見違えることは明白です。
もちろんどの書店もやっていることですが、鈴木敏文レベルで徹底すれば、ライバルの1.5倍、2倍売れる店舗をつくることができるでしょう。
たとえばブログを含むサイト運営。
記事をたくさんアップするだけでなく、売れ筋・死に筋をよくリサーチして、陳列の工夫を続ければ、棚の輝きに差が出てアクセスアップにつながるのです。
ここでいう「売れ筋・死に筋」とは、当然「記事ごとのアクセス数」を意味しますし、「陳列の工夫」とは、「トップページの見せ方」を指します。
ここの手入れ具合が、ファミマレベルなのかローソンレベルなのか、セブンイレブンレベルなのかで、アクセス数は1.5倍とか2倍にすぐなるはずだという「仮説」です。
ちなみに膨大なアクセス数を誇示して、それでセミナーをしたりしているビジネス系のサイト運営者がいますが、私の目にはいつ見ても同じ棚のほったらかしサイトにしか思えません。
こういう手抜きサイトはライバルがいないうちは売れるでしょうが、強力なライバルが参入すれば、すぐ抜き去られるでしょう。
つまり、「自分のビジネスにおける『商品棚』とは何なのか」を考え、そこに手を入れ続けて棚を輝かせることが、自分のビジネスへの応用となるのです。
繰り返しますが、顧客に見られる棚の輝きの違いは、世界の鈴木が長年にわたって実市場で勝ち続けたように、必ず大きな売り上げの違いとなって現れるのです。
このように他社の成功事例は、「自分のビジネスに応用できないか」という目を持つことによってのみ、付加価値を持ちます。
異質結合の目で情報を見ることが、最も賢い情報への接し方である、と私は考えます。
その意味でセブンイレブンという日本の誇るピカイチビジネスは、いまだ多くの示唆をわれわれに与えてくれます。
それではまた。