ディズニーランドの秘密

遠江(とおのえ)です。

きょうは「ディズニーランドの秘密」というメジャーなテーマを選んでみました。

ただしこのテーマは数多くの先人たちがすでに書いていますので、一般的な知見ではなく、
「私の見つけたディズニーの智慧」といったごく個人的な視点から述べてみます。

実は、私はセミナーを完成させるとき、プロの目でディズニーを研究したこともありますので、それなりに自分の意見は持っています。

これは私が仕事上の研究で、男一人で一日ディズニーランドを巡ったときの発見です。

男一人って。(笑)

◆駐車場の天使

まず私が目を見張ったのは、ディズニーランドが従業員を魔法にかけていることです。

ゲスト(客)ではなくキャスト(従業員)にまず魔法をかけているところに驚かされました。

ある真夏の朝早く、私は車でディズニーの駐車場に入ったのですが、
そこで場内を案内している十代のアルバイト少女を見かけたときのことです。

真夏の炎天下、アスファルトも溶けそうな劣悪な職場環境のなかで、
彼女は喜々として入ってくる車を案内しておりました。

その輝いた瞳、こぼれる笑顔、それは決して職業上の演技ではなく、
心の底からディズニーの楽園へ人々を導く妖精の如き振る舞いでした。

「彼女は天国の使者として仕事している。地獄のような暑さのなかで!」そう感じ入ったのです。

普通の女子高生が駐車場の天使に変身している!一体なにが彼女をあそこまで変えたのでしょう。

私はまだ入園する前からディズニーの魔法のすごさを予感しました。


◆迷子案内の奇跡

入園するとすぐに、私は自分の手持ちの現金が少ないことに気が付きました。

そこでATMを探したのですが、おとぎの国に銀行の看板は見当たりません。

しばらく迷った挙句、私は助けを求めてとある売店に入っていったのです。

「すみません、銀行のATMはないですか?」

店内は非常に混んでいたのですが、レジの奥で一生懸命伝票を繰っていた若い店員が、
私の声を聞きつけて、ピタッと自分の仕事をやめ、
笑顔で「あちらにありますよ」と手で方向を示してくれました。

ところが私はさきほどからあちこち迷ってきたので、どこか不安げな表情をしていたのでしょう、
彼女は「こちらです!」と迷うことなくレジを出て、私を案内してくれたのです。

「そこを左に曲がるとすぐありますので」

近くまで案内してくれた彼女は、心からの笑顔、いわゆるディズニースマイルを煌めかせて、
私を丁寧に見送ってくれました。

ああなんと親切に、と感謝しながら私は角を左に折れたのですが、あれっ?
おとぎの国はうまく造り込まれていて、またATMが見つけられません。

私がキョロキョロしていると、今度は角のところに居た警備員姿のこれまた若い女性が
さっと駆け寄ってきて「どうしましたか?」と訊いてきたのです。

事情を告げると、「ああ、申し訳ありません、こちらです」と
今度はおじいちゃんの手を引くようにしてATMまで導いてくれました。

私は一連の親切すぎる対応に深い感動を覚えました。

忙しいにもかかわらず、最高の笑顔で案内してくれた女店員、
自分のせいでもないのに、ディズニーを代表するかのようにお詫びする警備員の娘さん、
自分の予想を遥かに超えたホスピタリティに、
私は入園してわずか10分で強く心を揺さぶられたのです。

その後、この素敵なエピソードを、私は幾人の人に語ったでしょうか。

セミナーでも繰り返し語ってきたので、三千人はゆうに超えるでしょう。

ディズニーは小さな感動を無数に積み重ねることで、深い感動をつくりだし、顧客を宣伝マンに変えてしまったのです。

人気キャラクターでもダンサーでもない普通の従業員たちまで「キャスト」と呼んでいる理由がよくわかりました。


◆カリブの借景

そのあと、私は最初のアトラクションとして「カリブの海賊」を選びました。

リピーターの多いロングセラーの出し物であることを知っていたからです。

しばらく並んでようやく探検ボートに乗り、船着場を出港したとき、
暗闇の奥に人里最後のレストランがぼうっと光っていて、なんとも幻想的でした。

単なるフェイクではなく、実際に営業しているレストランだったので、
余計にこれから人気(ひとけ)のないジャングルに入っていく心細さを感じました。

        ◆

アトラクションを終えて腹が減ったので、外に出てから近くのレストランに入ると、
実はそれが件のレストランであることに最初は気がつかず、
テラスの向こうが草の生い茂った川べりになっていて、
向こうにボートが出港しているのが見えて、やっとさっきのジャングルレストランであることがわかったのです。

アトラクションとレストランが互いに借景となって、相互に演出しあう相乗効果の仕掛であることにそこで気づきました。

ボートはボート、レストランはレストランで、独立して別々に回しているのですが、
双方が借景になると、とても深い世界を創り出しているのです。

「うーん、なんだかよく考え抜かれているなあ」と、
深い印象が心に長く残りました。

◆ミシシッピの借景

そのあと、いくつかのアトラクションを経て、有名な「ウェスタンリバー鉄道」に乗りました。

この鉄道はそもそもウォルト・ディズニーが古き好きアメリカを象徴するものとして、
ランドの主役に位置づけていたものであることを、のちに書物で知りましたが、
私はこの乗車でまたまた借景の智慧に唸ることとなったのです。

列車が動き出し、ジャングルや開拓者の村を経て、大きな川べりを右に見ながら高架をカーブしたとき、
斜めに見下ろすミシシッピ川の船着場から、いままさに出航する巨大な水車船が現れたのです。

港の酒場ではドレスの踊り子たちに客が群がっていて、
私は一瞬でトムソーヤの世界にタイムスリップしたのでした。

あとで、その巨大水車船に乗ってみると、やはり出航時のいちばん気分が高揚するときに、
かなたからウェスタンリバー鉄道の勇姿が姿を現すのが見えました。

これは明らかにタイミングを同期させています。

お互いが借景としてベストな感興を与えるタイミングですれ違うように設計されていたのでした。

「これはすごい。おそらく至るところにこの手の智慧が隠されているのだろう」

そう直感したことでした。


◆流れとクッション

数多くのアトラクションを経験してみて、私はある法則に気づきました。

ディズニーのアトラクションはすべて何か乗り物に乗せて「流れ」を体験させている。

そのスムーズな流れに乗せられて、乗客は徐々に別世界へと連れて行かれる。

ただし、流れがスムーズなだけではやがて飽きが来る。

それを回避するために、流れには時折ハッとするクッションが仕掛けられている。

たとえば、カリブの海賊の奥地に入る前の小さな急流のクッション。

あるいはくまのプーさんのライドが途中で急回転して驚かせるクッション。

スプラッシュマウンテンの最後に訪れる大滝滑りのクッション。

「スムーズな流れ」とそれを裏切る「クッション」が、意外性のある組み合わせとなって、
また乗りたいとリピートさせる智慧になっている!

私はこんな法則をあちこちで発見して興奮し、
そのあと自分がつくったセミナーにそっと取り入れたのです。

ちなみにそのセミナーはリピーターの続出する大ヒット企画となりました。


◆ウォルト先輩

すっかり魔法の国を堪能して、日も暮れ、
ランドを後にする時間となりました。

私はめくるめく一日を振り返りながら、
数多くの感動を与えてくれたキャストたちに
心で拍手を送っていました。

そしてもう一つ、
目に見えないところで彼らを支えている、
極めて優れたマネジメントの存在に
深く感銘を受けました。

そして出口を出るときに私は
こうはっきりと誓ったのです。

「ウォルト・ディズニー先輩、ほんとうにありがとうございます!

アメリカンドリームの最もいいところを見せてもらいました。

私は必ずやこれを超えるネオ・ジャパニーズ・ドリームを起こして、
ウォルト先輩の恩返しをさせていただきます」と。

あの日の感動、そして誓い、
これはくっきりとしたよき思い出として、
私の心に刻まれています。

これが私の見つけたディズニーランドの秘密です。

楽しんでいただけたでしょうか。

ディズニーランドが究極のリピート産業である、という定評は伊達ではありませんでした。

その素晴らしさはどんどん取り入れたいものですね。

ではまた。

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