USJの秘密

遠江(とおのえ)です。

今朝(2015年11月3日)の主要各紙に、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の十月の入場者数が175万人と単月で開業以来最高となり、同社の分析ではTDL(東京ディズニーランド)を抜いたという記事が出ました。

五年前までは圧倒的に負けていたUSJがV字回復を遂げ、さらに過去最高の発展を遂げている秘密について、きょうは私なりに述べてみたいと思います。

まず両者の比較を今流行のUFO的に言うと、TDLがプレアデス系で、USJがレプタリアン系ということになると思っています。

ただ、これだとわかる人には一発でわかり、わからない人にはまったくわからない言い方になるので、もうちょっと一般的な表現で言いますと、

TDLがシンデレラ城、ミッキー、くまのプーさんなどに代表される”おとぎの星”路線とするなら、
USJはハリーポッター、ゾンビ、ジョーズなどに代表される”刺激の星”路線で勝負しているということです。

前者の価値観が、愛と美と発展にあるとするならば、後者の価値観は、競争に勝って進化するところにあると見てよいでしょう。

今回は、USJがTDLとの競争に勝ったという勝利宣言と見ることができます。まぁ、まだTDS(東京ディズニーシー)を入れた全体では、かなりの差がありますので、一部の勝利ということですが。

そこで、私はUSJにも複数回訪れていますので、その現場体験の印象と、それ以外の情報を加味した上で、TDR(TDL、TDSを併せた東京ディズニーリゾート)との比較も取り入れながら総合的に述べてまいります。


◆パークの造り込み

まず、USJのパークの造り込みですが、全体としてはザッとしています。

つまり、ハリウッドの映画工場が元々のテーマですから、普通の碁盤の目型の道路の両サイドに、アトラクション工場が立ち並んでいる、というのが基本です。

勝負はアトラクションのおもしろさだけでやっていて、TDRのようにパークを歩くこと自体での非日常体験はあまりありません。

ここが2009年まで両者に大差がついた原因でしょう。

ただ、昨年オープンしたUSJの「ハリーポッター」だけは隔絶して造り込まれており、このエリアだけはTDRよりお金もかけられ、クオリティも上です。

全体の完成度はTDRのほうが上ですが、一部それを凌駕したものを持っているところがUSJの戦い方のおもしろさです。

これは、TDRがウォルト・ディズニーの創業理念から土台をつくっているのに対して、USJが一人の改革者によっていま勃興していることの違いにもよります。

土台から積み上げていったものと、後から建て増ししたものの違いが、全体調和と部分突出の違いになって現れているのです。

そして、一つ今回のポイントとなるのは、時代適応をするのに、前者は遅いが、後者は敏捷にできるという利点があるということです。

全体調和を考えると、一部の変更は難しいですが、部分突出をよしとすれば、気軽にどんどん変更できるのです。

だから、USJは「ハリウッド映画のパーク」という理念にこだわらず、流行っていれば「ワンピース」でも「進撃の巨人」でも取り入れてきます。

今月の躍進も、ハロウィンの仮装人気を取り入れて、パーク内のいたるところに仮装ゾンビが登場するという演出をやったのが大ウケした結果です。

調和と造り込みのTDR、進化と企画性のUSJという対比ができるでしょう。

ゼロ戦のTDR、グラマンのUSJと私などはたとえたくなります。

きめ細やかな芸術品vs無骨だが新しい機能を持った実用品といったところでしょうか。


◆一人の改革者

TDRのキーマンは何と言ってもウォルト・ディズニーですが、USJのキーマンは創業者でも現在のトップでもなく、いち執行役員の森岡毅(つよし)氏です。

私の見解では、この人一人でUSJは生まれ変わりました。

なので、USJ躍進の秘密に迫りたければ、この森岡氏の考え方を分析しなければなりません。

この人は、一言で言ってバリバリの限界突破者です。

以前私が書いた限界突破の3ポイントを、この人はすべて持っています。

ちなみに「限界突破の3ポイント」とは、

1、挑戦・教訓・挑戦の積み上げ法
2、結論にワープするビジョン法
3、最後は度胸の突撃法

のことですが、この人は「積み上げ」も「ワープ」も「突撃」もできるので、傾いていたテーマパークを一気にV字回復以上の躍進をさせる、という離れ業ができたのです。

この人はディズニー超えをやろうというビジョンを、初めから持っていたように私には見えます。

最初から、ディズニー以上の入場者数と収益を上げようと決意して潜在意識に刻印し、あとはその方法論をひらめいてはトライアンドエラーを繰り返し、難所にぶつかったら突撃してでも突破しながら前進しています。

反作用も相当あったでしょうが、それをやり切ったのは偉いと思います。

たった一人の改革者が出て巨大組織が別ものになりました。

もちろんトップが彼を受け入れたことが背後にはあります。


◆アイデアと突破力

この人のやったことで有名なのは、ジェットコースターを後ろ向きに走らせたことです。

私が行った時で2時間か3時間待ちの大盛況でしたが、予算をかけずに既存設備を大ブレイクさせるという、まさに離れ技でした。

それ以外にも、多数の従業員にゾンビの扮装をさせてパーク中をお化け屋敷にしたり、入場者の中に演者を仕込んでおいて、突然街角でミュージカルを始めたり、とにかくまずは経費をかけずに集客するというヒットを重ねました。

そして貯めてきた資金を一気に使って、ディズニー以上のクオリティで「ハリーポッター」のエリアを新装オープンさせたのです。

お金をかけずに集客するというファインプレーの上に、お金をかけてライバルを抜くという二段目のロケットを発射したわけです。

この発想力とスケールの大きさは日本人離れしており、森岡氏も元外資系で活躍したということがバックボーンになっているのでしょう。

起業家として注目したいのは、お金をかけなくてもアイデアと実行力によって、集客できたということです。

逆発想することによって、既存の設備、既存の人材を使ってでも大きな付加価値を生めた、というところを真似すべきです。

そして、斬新なアイデアには実現過程で幾重にも障害が出てきますが、それを一つひとつ限界突破するということです。

これら、森岡氏の「ビジョン」と「アイデア」と「突破力」を見習いたいと思います。


◆異質結合の智慧

「異質結合によるイノベーション」という概念は、経済学者シュンペーターが唱えた人類の叡智です。

異質な業界の成功を自分のところに結びつけることによって、いくらでも新しい発展はつくれる、ということです。

たとえばテーマパークは大資本による大事業で、マーケティングの先端を行く究極の集客業です。

浮き沈みも激しく、いまUSJが勝っているからといって今後の予断は許さないでしょう。

ただ、それだけ厳しい業界での智慧を尽くした戦いだけに、ここから学べることは多いと思っています。

「私はネットビジネスだから関係ない」とか、「小売業だから関係ない」と、凝り固まった古い頭でいると、淘汰の波に呑まれていくのではないでしょうか。

エンターテイメントからの発想は、イノベーションの種に使いやすいと私は考えています。

そして、独自の視点でそれらを分析しては異業種に結合させていく智慧が、これから未来を切り拓いてゆくと確信しております。

それではまた。

関連記事はこちら

「限界突破の3ポイント」

あと、こちらの論考も参考にしてください。

ディズニーランドの秘密

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