矢沢永吉のクロージング力
遠江秀年(とおのえひでとし)です。
◆How to be BIG
私が過去四十年近い間、繰り返し読んできた本の一つに『成り上がり』という本があります。
1978年に矢沢永吉が出した激論集で、コピーライターの糸井重里が文章にまとめた本です。
これを私は二十歳そこそこで読んで感動し、大きな影響を受け、その後、折にふれて何度か読み返し、
ついいましがたも読み直したところです。
ときには涙を流し、ときには腹を抱えて声を出して大笑いしました。
それぐらい私にとっては魅力的な本です。
なぜか?
ぜんぶ本当のことを本音で語り切っているからです。
そこに一行たりとも借り物の言葉がなく、すべて矢沢の魂から迸る言葉で語り尽くされているのが、直接私の心を打つのです。
◆印象的な一言
1、「ドミジメ!最初のディスコ。」(p105)
最初につくった素人バンドでハッタリをかましてオーディションを受け、
あまりのひどさにアンプのコンセントを引き抜かれて終了したエピソード。
おもしろかったです。
2、「すみ子、ほんとは一万円札もらったんだけど。おまえに札渡したかったけど、バスで……」
と言ったら、女房ワンワン泣き出した。
それで、また、オレは絶対ビッグになってやるって思ったね。(p190)
2つ目のセミプロ人気バンドを解散して、
川崎で日雇いの仕事をやって食いつないだ頃の、逆境愛のエピソード。
涙が溢れました。
3、「紹介しましょう。キャロル!」
紹介しましょう、キャロル。と、それと同時に、ジョニーがその場にひっくり返った。舞台で。(p225)
ビッグチャンスをつかんだキャロルの初舞台で、はしゃぎすぎたメンバーが紹介されたと同時にスベって転んだエピソード。
思わず声を出して長い間笑ってしまいました。
これはどん底から夢だけを武器に成り上がった、桁外れのバイタリティーを持った男の成功譚であり、
木下藤吉郎から豊臣秀吉に成り上がった『太閤記』にも似た痛快な本です。
◆矢沢の魅力
本当にこの人は、人を信者にさせてしまう力のある人です。
営業でいえば、クロージング力抜群の人ですね。
つまり「決めてしまう」力が人並み外れて強いということです。
といって、私はこの人のコンサートに行ったこともないし、
レコードも2枚しか買ったことがないので、通常いうところのファンですらないのですが、
しかし、読まされ、信じさせられ、行動させられた一人であることに間違いはありません。
現に、この本を読んだあと、私はバンドを組み、店に出演し、
デモテープをつくって東京のレコード会社に売り込みに行きましたし、
その後、紆余曲折はあったにせよ
いまこうして独立して夢に向かって挑戦していますので。
数多くの若者が、矢沢永吉の言葉に感動し、奮い立ち、人生のチャレンジを始めたことと思います。
どこにそのパワーがあるのか?
それは徹頭徹尾の有言実行にあると、私は考えています。
この人ほど歯に衣を着せず、強気にモノを言う人もめずらしく、
この人ほど何十年経っても発言がブレずに、言ったことはやる人もめずらしい。
だって十代でスーパースターを志して、
いま67歳で現役のロックスターを張り続けているのですから。
ご立派!というリスペクトしか出てきません。
◆My favorite song
この人の曲のなかで一番好きなのは「チャイナタウン」です。
「チャイナタウン この街を往けば
想い出が 風のように 頬を打つ」
私もチャイナタウンを、まだ何者でもなかった時代に歩いていたので、
この歌は心に沁みます。
「チャイナタウン 空のポケットに
夢ばかり 詰め込んで 生きていた二人さ」
夢しかない貧乏青年が、無名時代に、あの中華街を歩く気持ちが、
ため息が出るほどよくわかるからです。
そういえば、矢沢もシナトラもビートルズも、
世界に冠たるビッグ・エンターテイナーは
皆共通して港町からそのキャリアをスタートさせています。
横浜、ホボーケン、リバプール。
港町には夢追い人たちの型破りの奮闘を許す、懐の深い坩堝的磁場(るつぼてきじば)があるからかもしれません。
この0から始めて挑戦を繰り返す無数のドラマが、
神様が世界を創って見守っている理由なんだと、
直覚的につかめてしまうのです。
「オギャーと生まれて0からもう一回チャレンジしてみよ」
という人生の真理が心の深いところに響き渡るのです。
この真理を世界中に散らばるマイルドヤンキーたちに教えるために、
天が地につかわしたのが矢沢永吉という人の正体でしょう。
心からそう思います。
矢沢永吉。ここに、日本が誇る、最も価値あるエンターテイメントが一つあると思います。
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